ほの暗い海の鬼火

ご無沙汰しております、鱗音 虫担当です。

私生活で色々と変化がありブログの更新が滞っておりますが、同時にブログのネタも非常に大渋滞しておりますゆえ、ぼちぼちと書いて消費していこうと思います…

いや、本当にすみません…


さて、今回紹介する探索は夏にぴったり!(公開時既に晩秋)なお化けネタ!

夜の暗い海に浮かび上がる青白い「鬼火」を探しに行きました。

真っ暗闇の海。

風邪が生暖かく感じられたこの日は、目的の生き物を見るには絶好のチャンスでした。

波打ち際をしばらく歩くと、普段の海岸では見慣れない生き物が打ち上げられ悶えていました。


イカだ…。しかし、ピカピカと青白い光が見えます。(この写真にもうっすら写っている)

自分の懐中電灯の反射ではない。

全ての光を落としてもう一度見てみると…



ぼうっとした青白い光が揺らめきます。その様はまるで鬼火。

このイカの正体はホタルイカ。腕の先端に付く発光器を敵に対する威嚇や防御の際に使うと考えられており、打ち上げられむなしくそれを振り回す様子は儚げでありつつも幻想的です。

海岸を歩くと多くのホタルイカが目につきました。



元気そうな個体をバケツの海水で洗ってやると、スイスイ泳ぎ始めました。透き通る体と、オレンジ色の肝が目立つその様子は「流氷の天使 クリオネ」を大きくしたような印象でした。

しかし、体長5㎝をゆうに超えるその体格はいつも食卓に並ぶものよりも大きい。

それもそのはずで、これら打ち上げられた個体はほとんどが抱卵したメス。年に一度、産卵のために浅瀬に大集合した際に一部の個体が波に流されて打ち上げられるのです。「ホタルイカの身投げ」として親しまれる風物詩ですね。


鱗音として、採集したからには標本にせずにはいられません。これとて貴重な記録ですから。

アルコール浸漬標本としました。イカなど頭足類は頭が上、胴が下になるよう正しく配置すると上の写真のようになります。わかっていても見慣れない。

10本の腕のうち、先端に黒いものが付いている腕が2本見えますが、これが発光器です。前述の写真で青白く振り回しているのはこの黒い部分というわけですね。

茹でてしまったボイルホタルイカはダルマ状になってしまっていますが、生時のホタルイカはちゃんとイカの形をしていることが自分の眼で見られたことに感激でした。



…と、標本の撮影をしていると、

イカの胴部から何か転がり出ました。

…グソクムシの仲間…?ホタルイカにもこうした等脚目の外部寄生虫が付くなどというのは不勉強ながら聞いたことがなかったため驚きでした。感激のあまり、こちらのグソクムシはは別途小瓶に入れて保存してあるほどです(笑)


まだコロナウイルスが名前すら上がらず、北陸を離れる直前のおはなしでした。



…おおっと、大事なお話を忘れていた。

身投げされたホタルイカ、食べないほうがいいですよ。胴の中にそれはもうこれでもか!と砂が詰め込まれて出てきません。標本にするのにも苦労しました。また、生食すると旋尾線虫 TypeⅩという寄生虫に寄生されてしまう可能性が高く、治療法は今のところ存在しません。

ホタルイカを求めて近隣住民とトラブルになる例も近年増えているみたいですので、観察しに行く際にはくれぐれもご注意を。

鱗音 -scaletone-

標本作成ユニット「鱗音 -scaletone-」公式サイトです。 主に昆虫の定格標本、動態標本、魚類・両生類・爬虫類を中心とした透明化骨格標本、鳥類を中心とした剥製標本、各部位の標本、羽の額装標本などを扱っています。

0コメント

  • 1000 / 1000