最後の砦・出水ツル越冬地(2024.2.25-26 探訪記)

皆様こんばんは。鳥類部門担当こりんです。今晩も冬鳥の話題!


鹿児島県、出水市(いずみし)。ここに、ツルたちの最後の砦が存在します。

その名も「出水ツルの越冬地」。毎年ここにはツルたちが、冬の間、羽を休めに飛来します。

その数1万羽以上!

出水ツルの越冬地は約478ヘクタール、そのほとんどが冬季休耕中の農地です。

そのほぼ真ん中には観察センターがあり、越冬地内の指定ルートを走行するための電気自動車や電動モビリティ、双眼鏡や一眼レフカメラなどの貸し出しも行っています。


初めて現地を訪問しましたが圧巻です。

見回しても見回してもツル。耳いっぱいに響く「クルルン、クルルン」という声。

駐車場に入る直前、降りた後、観察地の至る所に消石灰が撒いてあります。鳥インフルエンザの持ち込み防止策です。

ここに毎年1万羽以上のツルが集まるのは何故か。時代があたらしくなるにつれてまとまった農地や草原が開発等で大幅に減少した結果、世界的に見てもツルの越冬地はもうほぼ残されておらず、ここ出水市が事実上「ツルたちにとっての最後の砦」になってしまったからです。

当地で最も多いのがこのナベヅル。全世界のナベヅルのうち、約90%の個体がここ出水市で越冬を行います。


当地は入域制限がなされており、観察者は観察館での観察以外には、決まったルートを巡回することのみでの観察となります。

これは鳥インフルエンザ等の感染症の持ち込み・拡大防止策のほかに、路上駐車などによる車のトラブルの防止の目的も含まれます。「ツルへの配慮」「住民と来訪者の共生」「鳥インフルエンザへの防疫体制の強化」の3項目を掲げ、これを「越冬地利用調整」とすることで、住民もツルも最大限に守る素敵な取り組みです。

とはいっても近い!助手席から見てこの距離感です。


カナダヅルが出てきました。手前の虹彩の黄色い方が幼鳥です。他にはないグレーの羽と茶色の羽のコントラストが美しい種です。

マナヅルたちの中……いました!真っ白いのがソデグロヅルです。本種は絶滅一歩手前の、当地でも稀種のようです。こうした鳥たちも住処が守られ、個体数が回復していくことを願うばかりです。

ボケ&ブレではありますが……コウノトリのようなお顔をしていますね。元気なまま越冬できますように。

マナヅルたちもナベヅルに次いで多いです。

実はツルというものがアネハヅル以外未見だったもので、出発前には「マナヅルとナベヅル、見分けられなかったらどうしよう……」と思っていました。

現地に着いて思いました。「これは間違うわけがない!」

まず大きさから違いました。画像中央ちょっと下の後ろ姿がナベヅルです。ちっちゃい!

ナベヅルの幼鳥がトコトコと歩いて行きます。

この時うしろにクロヅルが映り込んでいることに気づかず、後で悲鳴を上げることも知らずに……。


観察ルートの途中に設置されているハイドで、地元の方にこっそりと「ナベクロヅルが見れる場所教えちゃる」と耳打ちされました。

ふむふむ、ここから入ってこう行くんですね。……ありがとうございます!

ご案内のあったおかげで、クロヅルの父親とナベヅルの母親、そしてその合いの子たちのナベクロヅルに会うことができました。

画面中央から左に向かって、クロヅル成鳥、ナベクロヅル幼鳥、ナベヅル成鳥、ナベクロヅル幼鳥の4羽家族でした。君たち混ざるんか……。

この2種はしばしば混ざることがあるようです。

別の場所でクロヅルの他の個体を見ることもできました。気をつけて見てみると案外クロヅルいるな……まさか撮ってたりしないよな……(ここでカメラを見返して悲鳴)

皆さまもご来訪の際は、よくよくお気をつけになってくださいませ。(n敗)


この日はマナヅル、ナベヅル、クロヅル、カナダヅル、ソデグロヅルの5種(交雑ナベクロヅル含6種)のツルたちを観察することができました。

アネハヅルは見たことがあるので、残る国内観察種はタンチョウ1種……!いつか北海道も行きたいですね。


翌朝は、北帰行開始の日でした。

北に向かってまっすぐ飛び去っていくツルたち。まだ冷たい風の吹く朝焼けのなか、群れを大きくしながら去っていくツルたちの姿を目で追います。

どうか素敵な夏を。また冬に会いましょう。

この環境がいつまでも残りますように。そしてできることならこの環境がもっと増えて、ツルたちがもっとまばらに散って越冬できるようになれますように。


観察館には出資社のひとつである日本航空の折り鶴がありました。なにこれ、ほし〜!

どうやら今シーズンも、ツルの飛来が始まったようです。皆さまもこの冬、出水氏に足を運んでみませんか。とっても素敵なところでした。


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参考文献

・出水市ラムサール推進室パンフレット『この風景をいつまでも 出水のツル観光』

鱗音 -scaletone-

標本作成ユニット「鱗音 -scaletone-」公式サイトです。 主に昆虫の定格標本、動態標本、魚類・両生類・爬虫類を中心とした透明化骨格標本、鳥類を中心とした剥製標本、各部位の標本、羽の額装標本などを扱っています。

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