剥製用義眼の選び方や買い方について(初学者向け)
皆様こんばんは。鳥類標本担当のこりんです。
皆様の中には、「本剥製を作ってみたい!でも義眼がない……」「以前作ったけど義眼選びが大変だった」「義眼のサイズの選び方がわからない」という方もいらっしゃると思います。
本剥製に関して言えば日本語のマニュアルは数十年更新されておらず、独学の私も洋書や海外のカタログに頼り切りなのが現状です。
ではそのような教材や資料をすべての初学者が手に入れられるか?というと絶対にそんなことはないので(私も何年、何万円かけたかわかりません)、今晩は「鳥の義眼」に話を絞ってお話をさせていただきます。
どうかこの記事が、少しでもお役に立てますように。
【義眼の材質】
まず義眼には、アクリル製とガラス製のものがあります。
一般的にガラス製のものが多く使われるのですが、これはガラス製の方が製品展開が多いこと、傷や温度変化、溶媒による腐食、そして経年劣化に強いことが理由です。
ただガラス製のものは裏から人の手で彩色を行うので、1ペア買っても瞳孔のかたちにばらつきがあったり、そもそも価格が高かったりと、初学者にとっては手の出しづらいラインナップではあるかもしれません。
アクリル義眼は溶媒や熱、経年劣化に対する脆弱性はあるものの、価格帯も比較的優しく、物によっては機械で彩色を行なっているので安定した瞳孔と色調が魅力です。
最初はアクリル義眼で練習して、技術が上がってきたりお金に余裕が出てきたタイミングでガラス義眼を買ってみるのもいいと思います。
ガラス義眼
【メリット】製品展開が多い・傷や高温に強い・溶媒に強い・経年劣化しにくい
【デメリット】やや高価・瞳孔の作画がやや不安定
アクリル義眼
【メリット】比較的安価・瞳孔と虹彩の作画が安定している
【デメリット】温度や傷、溶媒への耐性に欠ける・経年劣化の度合いが未知数(開発から歴史が浅いため)
【義眼の構造と見え方】
ひとくちに「義眼」といってもたくさん種類があります。
最もクラシカルなものは針金の先にガラス玉を整形してあるかたちで、今でも愛用する方はたくさんいらっしゃいますが、製品ラインナップはあまり多くないので本記事では省かせていただきます。
まず2種類の義眼の比較を行います。
左はアメリカの会社「McKenzie Taxidermy supply」の製品、右がドイツにある「KL-Glasaugen」の製品です。KLのほうは少しこだわったラインナップから選んだので多少高価ですが、この項目では義眼の構造についてお話しするので価格の差についてはご容赦ください。
さてこの何の変哲もない義眼たち、横から見ると表情が一変します。
McKenzieの製品は全体に色が反射し、瞳孔も三角に上にあがってきています。
KLのタイプはまず下に虹彩があり、その上に控えめに瞳孔が乗り、角膜の表現として透明ガラスが被るようにできています。
どちらが優れているとかではなく、鳥の眼窩に収めていろんな角度から見た時に、どちらのほうが好みかは意見が分かれると思いますので、ご自身の好きな表現を選んでください。
このように瞳孔と虹彩の立体感の差がでるのは、裏から見た時の構造の違いの影響が大きいです。
McKenzieの義眼はほぼ平面の裏面に彩色を施してあるのに対し、KLの義眼は裏面を半球状にくり抜いて、その中を彩色してあることがわかります。
KLの作るような形の義眼の中でも、瞳孔の上に被さる透明なガラス部分の厚みには何種類かのラインナップがあります。
(……瞳孔の作画が不安定ですね。)こちらの製品はかなり透明ガラスが分厚いタイプです。
KLはこのような高さのある義眼のなかで、アクリル製のものも出しているので参考に見ていきます。
このラインは球の上まで虹彩と瞳孔の色が上がってくるので、鳥を作るのに向いているかもしれません。うそみたいに安いですがそのぶんバリが出ていたり瞳孔にずれがあったり……最低注文数が5ペアからなので、そのあたりも許容できる人向けです。
フクロウなど暗闇で瞳孔を発達させる鳥のための義眼には、こんなものもあります。
1ペア2000円近くする〜(悲鳴)
ただこれは本当にかっこよくて、瞳孔が青いガラスで作られているため光を当てるときらっと不気味に反射します。普通に見ている分には黒っぽいんですが……。真っ黒の義眼でも見栄えしますが、こだわりたい方はこういったラインナップも視野に入れていただければと思います。はやくフクロウやんなきゃ……
ここまでほぼガラス義眼のみ(一部アクリル)でご紹介してきましたが、この項のさいごに私が最近買って良かったアクリル義眼のご紹介もさせてください。
こちらはベラルーシの会社「Taxidermy by.」の製品です。けっこうな安さの上、デジタルプリントなので瞳孔にブレがありません。
そして何よりこの黒っぽく見えている義眼、光をよく当てると瞳孔がしっかり出てきます。
横から見るとこんな感じです。
上まで色が上がりながらも、角度によっては透明部分に光が入るようになっています。
ヒヨコや幼鳥の小鳥類はこの「一見は黒、よく見るとふっと目があう」くらいの色感の眼の子が多いので、再現度としてはかなり高いです。というかもはやそのもの……
送料も安くてざかざか30ペアくらい買ってもお会計が1万円くらいなので、ヒヨコやスズメなど小鳥類をたくさんこなしたい初学者の方にこそおすすめしたいブランドです(KLで同じくらい買うと4万円くらいする)
【製品義眼以外で義眼に使用できるもの】
さて、ここまで普通の「義眼」をご紹介してきましたが、欲しいけれどなかなか納得できるものがない……その代表格がアルビノ用の義眼です。
文鳥やセキセイインコ、オカメインコなどの飼い鳥の剥製で、製品として売られている義眼と実際の目の色のギャップに苦しんだ人はいらっしゃると思います。製品の、赤すぎたりピンクっぽすぎたりするんですよね……。
そこで鱗音では、「カボションカットのガーネット」をお勧めしています。
こういったものです。真円のものでも楕円のものでも使える形なら大丈夫です。
ガーネットといってもいろんな色がありますが、なるべく暗めの色を選ぶと失敗しません。
このガーネット、「ぱっと見ると黒っぽく、光が差し込むと深い紅」という特徴が実際の飼い鳥の眼に近く、また入った光が抜ける方向が鳥の眼のその角度と一致しているのでかなり再現度が高いです。
1ペア500〜2000円ほどなので、あまり高すぎないのも魅力ですね。
義眼は各社さまざまな形を出していますから、自分の使いやすい形を探してみてください。
【義眼のサイズの目安】
剥製を作るぞ!と意気込んで剥皮をして、「そういえば義眼何ミリの使えば……?」と慌ててまぶたを測ったところで、義眼はすぐには手に入りません。
新鮮な遺骸を拾って(あるいは拾う予定で)、それを剥製にする予定があるのであれば、あらかじめ適合する義眼を手に入れておくのが理想です。
でも、その鳥に対する義眼のサイズなんてわからない!という初学者のため、義眼サイズをRudolf Piechocki著の『Augenkatalog der Vögel Europas』(ヨーロッパ産鳥類の目のカタログ)から国産種を一部抜粋、そこに私が個人で計測したものも付け加えて残しておきます。
検索しやすいように、和名の五十音順で並べてあります。
上記の表で記載されていない種類をお持ちの方で、義眼サイズ等お困りでしたら X アカウントの@pokorinte もしくは E-mailアドレス pokorinte@gmail.com までご連絡いただければ、可能な範囲でお答えいたします。
【義眼の購入】
さて、ここまでの記事で使いたい義眼の種類やサイズ、色などがイメージできてきたかと思います。
では、義眼の購入方法についてご案内していきます。
おおきく分けてふたつ、「国外に大口で注文する方法」と、「国内で小口で買わせてもらう方法」があります。
国外に注文する場合、私のおすすめの会社は3つです。
まず最初にご紹介するのは、ドイツの義眼制作会社「KL-Glasaugen」です。
高品質で立体的な義眼を作るこの会社は、一羽ずつこだわりたい人にもたくさんこなしたい人にもおすすめの会社です。
送料は69ユーロ。けっこうするので、複数人での共同購入や大口での注文をおすすめします。
次にご紹介するのはベラルーシの会社「Taxidermy by.」です。
「こんな世界情勢だけど、日本に荷物送ってもらうの大丈夫ですか?」と問い合わせたところ、「日本には他にもお客さんいるしぜんぜん大丈夫だよ!」と返信がありました。大丈夫だそうです。
高品質なアクリル義眼を強みとするこの会社は、義眼の価格の求めやすさに加え、送料が 7.63米ドル!少数からでもあまり気にせず買えちゃいます。対応も早く、国際郵便にしてはけっこう爆速で届くのもありがたいところです。
最後にご紹介するのはアメリカの会社「McKenzie Taxidermy supply」です。
私自身はこちらのサイトを直接利用したことはありませんが、国内でこちらの義眼を入手した感じとしてはクラシカルで良いものを作るなという感覚です。
送料はパッケージの大きさごとに計算されてあとから請求されます。
次に、国内で小口で買わせてもらう方法をご紹介します。
ただし、あくまで「剥製屋さんが自分で使うために注文した中から、ご厚意で分けて買わせていただいている」ということだけは忘れないでください。
あまり大口になるようでしたら、ご自身で海外に発注することも考えてみてくださいね。
まずご紹介するのは東京都三鷹市にある剥製社「アトリエ杉本」さんです。
もし義眼のサイズが分からなくても、鳥の種類を伝えれば適合した義眼を提案してくださいます。店舗へ直接買いにいくこともできますが、お忙しい日が多いので、事前に必ずメールで日程調整をするようにしてください。
次にご紹介するのは石川県輪島市三井町にある「三井(みい)剥製」さんです。
こちらはアトリエ杉本さんで長年修行された方が独立され作られた剥製社です。
同じく義眼の相談に乗ってくださいますが、店舗型ではないのでメールでのご連絡をお願いします。
また、現地のその時の被災状況によっては回答に時間を要する場合がありますので、ご注意ください。
最後に義眼とは関係ありませんが、標本針などの入手でお困りの際はこちら「浜口標本」さんへご相談ください。
以上、慣れない文となりましたがお付き合いくださりありがとうございました。
鱗音も随時ご相談を受けていきますので、もしもお困りの際は、あまり気負わずに聞きにきてくださいね。
すべての初学者のみなさまに幸あれ!
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