剥製標本の作成を始めたきっかけ
鳥類諸標本作成責任者、こりんです。
みなさまこんにちは。
本日は、よくいただくご質問の中から、「剥製標本の作成を始めたきっかけは何だったのか」についてお話しさせていただきます。
自分の紹介をするようでとても恥ずかしく、書きづらいのですが、これから生き物に向き合い、誠実に心から剥製標本を始めたいと思っている誰かの背中をそっと押せるのなら、と思って記します。
私が剥製標本の扉を開けたのは2016年のことでした。
それまでの私は、一部の野鳥愛好家がそうであるように、鳥の羽に魅せられこれを蒐集する人間でした。
集めた羽は種数にしてようやく100種を超え、67Lの衣装ケース3個分が羽で埋まり、なかには金沢市で拾ったカササギの尾羽や、関東某所で拾ったミゾゴイの羽など珍しいものも入り混じり、いわゆる「羽屋」を名乗るには十分だったのではないでしょうか。
そんな中、2016年の8月、当時通っていた大学を歩いていると、あるものを見つけます。
綺麗なまま外傷もなく、ころんと転がったハクセキレイの丸死体でした。
たくさんの考えが頭を巡りました。羽を全部引っこ抜いて持って帰ろうか、翼を切り取って翼標本にしようか、どうしよう。
そこで思ったのが、「こんな綺麗な遺骸を分解してしまうなんてもったいない、このまま残したい」ということでした。
家に持って帰り、各部計測の後に冷凍庫へそっとハクセキレイをしまい、仮剥製の作り方が載っている、エール大学の『Manual of Ornithology』という本を買いました。
そこからは孤独な試行錯誤でした。剥製を教えてくれる施設も、人も、近くにはなかったからです。
道具を揃え、本を睨みながらハクセキレイの剥製にとりかかりました。困ったことに、本剥製を作るためのポーズのつけ方が載っている資料がありません。
当時、中に針金を通すことすら知らなかった私は、エール大の資料の通り脱脂綿とタコ糸であんこ(詰め物)を作り、なんとか立たせた状態で割り箸や洗濯バサミを使い乾燥しきるまで固定していました。今思い返すと、あまりの無知さと滑稽さに笑えてきます。
さて、そうやって出来上がったハクセキレイは、とても人に見せられないようなクリーチャーでした。あたりまえです。針金も入っていなければ、あんこもガタガタ、羽もうまく整えられていない状態だったので。
あまりの出来の悪さに絶望した私は、これを分解して翼標本と羽の額装標本にしてしまいました。こうして初めてのチャレンジは、惨敗に終わりました。
それから数年間は、スズメの死骸を見つけて仮剥製にしたり、カルガモの食われた死骸をみつけて翼標本にしたりして過ごしました。当時、鳥の死骸を見つけて譲ってくれる人はいませんでした。
転機が訪れたのは2019年、鱗音に加入して「爬虫類用の餌ひよこ」が冷凍で売られているのを知った時です。
そこから猛烈に練習しました。命を扱いますから、失敗はしたくありません。
丁寧に、丁寧に、でも試行錯誤しながら、今のあんこの作り方や、針金の通し方を確立させてきました。ひよこの中身は、すべてうちの蛇が食べました。
そうやって練習して、ようやく見るに耐える(?)標本を作れるようになったのはつい最近のことです。
今でも羽の整え方やあんこのサイズに甘いところがあります。今後の課題です。
たまに、「こりんさんの剥製標本は、表情があって素敵だ」とか、「今まで見てきた中で、一番生きてる感じがする」などとおっしゃってくれる方がいらっしゃいます。
とても嬉しいです。ありがとうございます。交通事故や窓への激突などで命を落としてしまった生き物の体を無駄にせず、その生き物の魅力を伝えられるような生き生きとした標本にできていたら幸いです。
ここまで作れるようになるまでたくさんの遠回りをしてきたけれど、これからも遠回りをしなければならないのだと思います。独学というのはきっとそういうものです。
でも、本当に生き物を大切にして、剥製標本を志す人がいるなら、私のように遠回りはしてほしくないと思っています。
生業として剥製師をやっている人に師事するのもいいかもしれません。
大阪では「なにわホネホネ団」、北海道では「えぞホネ団」など、剥製を教えてくれる団体が近くにある人は幸いです。
最近、昭和初期に刊行された『坂本式 動物剥製及標本作成法』という本を手に入れました。おそらく、日本語文献のなかで唯一、本剥製を作るときの針金の通し方を記載している本なのではないでしょうか。
近くに剥製師もおらず、教えてくれる団体や施設も遠く、独学しか道が残されていない私のような人もきっと多いと思います。
そんな人たちの手助けに少しでもなれればと、坂本式の針金の通し方を近々ブログにまとめたいと考えています。
また、近年木毛でないあんこの作成も増えてきました。樹脂粘土やスタイロフォームを用いたやり方です。こちらについても、Carl Church『Bird Taxidermy』を参考にしながらご紹介できればと思います。
長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。ご質問などございましたら、いつでも鱗音やこりん本人のTwitterDMにお寄せください。
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