枯草を歩くぬいぐるみ

寒さも和らいできたころ、萌黄色が目立ち始めた河川敷に探索に行きました。


…え?今秋だぞって?

まぁまぁ、可愛らしい生き物はいつ紹介したって可愛いんですよ(言い訳)


植物が芽吹いてきたとはいえ、まだまだ視界にはすすけた茶色が目立ちます。

しばらく歩くと小さな虫が目にも留まらぬ速さで飛び出しました。

あとを追っていくと、ある地点に差し掛かったところでポトリ!と落ちるように飛翔をやめました。

正体はフチグロトゲエダシャク。

早春にのみ発生する蛾で、ある程度の広さのある河川敷に生息しています。

河川改修などで生息場所が減っており、近年報告されなくなってしまった生息地もあるようですが、単純に飛翔が速く、後述する飛翔の特殊さも相まって見つかっていないだけの可能性も否めないかもしれません。

20分程度交尾をしたあと、♂は再び飛び立っていきました。

あとに残されたのはアザラシのような、はたまた手足をつけ忘れたぬいぐるみのような姿をした虫。筆者は3年間同じ場所に通って、やっと初めて♀を観察することができました。


フチグロトゲエダシャクをはじめとしたいわゆる「フユシャク」の仲間の♀は翅が無いもしくは非常に短く飛ぶことができません。フェロモンで♂を呼びます。

この♂を呼ぶ行動は多くの場合午前中に行われ、暖かくなり始める9時ごろから♂の飛翔がはじまって、昼を過ぎるころには飛翔が止まります。

♂は先にも述べましたが非常に飛ぶのが速く(だいたいハエと同じくらいのスピード)、またその色が非常に枯草に似通っているために見つけるのが困難です。

眼で追っていたはずなのに、ふとした瞬間に見失うこともしばしば。


こうして交尾を終えた♀は、それはもう大量の卵を産卵し次の世代へ生を紡ぎます。

♀は飛んで移動することができませんが、孵化した幼虫は非常に小さいので吐いた糸を風に乗せて飛ぶことができます。風にのって分散するわけです。


来春のよく晴れて風の穏やかな日に河川敷に行くことがあれば是非探してみてください。

思いもかけないところで見つけられるかも?しれません。


鱗音 -scaletone-

標本作成ユニット「鱗音 -scaletone-」公式サイトです。 主に昆虫の定格標本、動態標本、魚類・両生類・爬虫類を中心とした透明化骨格標本、鳥類を中心とした剥製標本、各部位の標本、羽の額装標本などを扱っています。

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